大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)1458号 判決 1964年4月30日

被告 大阪銀行

理由

一  訴外川辺正雄が繊維物の卸売並びに加工を業としていたところ、昭和三二年七月四日大阪地方裁判所において破産宣告を受け、原告がその破産管財人に選任されたこと、被告銀行が、もと、株式会社大阪不動銀行と称していたが、同年一二月一日現商号に変更したこと、被告銀行千林支店と破産者との間に当座取引があつて、破産者が、被告銀行に対し、債務担保のため本件担保商品、手形を譲渡したこと(但し、全担保商品、10、11の担保手形の譲渡の日時、及び被担保債権の点を除く。)、被告銀行が、右譲渡を受けた担保商品、手形を、原告主張の日時に、その主張どおりの価格で処分したり、手形金の支払を受けたこと、破産者が、同年四月二一日金三〇、〇〇〇円を任意弁済したこと、訴外株式会社日証の破産者に対する有体動産の執行に、被告銀行が照査手続をなしていたこと、は当事者間に争がない。

二  そこで、先ず、担保商品、手形の譲渡金三〇、〇〇〇円の弁済の否認について考える。

(証拠)を総合すると、被告銀行は、昭和二八年一月千林支店を新設開店し、その直後から、右支店と破産者との間に当座取引を開始し、破産者の主な取引銀行として、破産者のため商業手形の割引をなし、確たる約定も結ばないで、必要な際は当座貸越を認め、昭和三〇年までは一応順調に決済されてきていたのであるが、もともと、破産者の営業方式が、季節外れに生地等を買い入れ、これを加工して季節に売り捌くということであつたため、昭和三一年春頃プリント生地が暴落したことから、破産者は、多量の在庫品を抱えながら資金繰が悪化し、破産者が、千林支店を支払場所として振り出していた約束手形は、五日目毎に同支店に呈示されたが、これが支払資金が不足勝となり、このため、被告銀行は、やむなく、右支払手形を当座貸越において支払決済してきて、昭和三二年二月一一日現在における当座貸越残高は、金一四、二七一、八三三円となつた。このため千林支店長吉田道夫は、このことを被告銀行本店に報告し、指示を仰いだところ、被告銀行本店は、爾後貸越の増大を禁じ、同月二二日より調査役藤村重信をして吉田支店長を補佐監督せしめることとした。そして貸越の増加を禁ずるは勿論、貸越残の減少をはかる方針で臨んだ結果、同月二〇日現在において金一四、七五一、五四一円あつた貸越残高も同年三月一一日には一旦金一〇、〇八二、六二五円と漸減したが、それから再び増加の傾向を示し、支払資金を直ちに調達するということで当座貸越を認めてきたが、支払資金の調達は次第に遅れ勝となり、同月一五日貸越を認めた一三通の支払手形合計金二、三三〇、一六四円の支払については、同月二〇日までに漸くこれに見合う金二、三〇〇、〇〇〇円(原告主張の同月一九日金二〇〇、〇〇〇円、同月二〇日金一、〇〇〇、〇〇〇円を含む。)の入金があつたという状態で、右入金後の当座貸越残高は、金一一、一一六、八〇六円となつた。そして、同月二〇日には、被告主張の二、(一)の支払手形が千林支店に呈示された(このことは当事者間に争がない。)が、この支払資金の調達は全くできておらず、被告銀行としては、前記の如く、確たる約定もないのに当座貸越を認めてきたものの、破産者の被告銀行に供与していた担保が金七、二五〇、六九三円相当程度であり、他方、破産者の営業状態からして、爾後貸越増加分については、担保を提供しなければ、貸越による支払手形の決済を認めない旨を破産者に申し入れ、主として支払手形決済のための貸越増加分を担保し、併せて、既存債権をも担保する趣旨のもとに、右貸越増加分に見合う1ないし10の担保商品、1の担保手形のほか二通の受取手形の譲渡を受け、前記支払手形を当座貸越でもつて支払決済し、1ないし10の担保商品については、翌二一日引渡を受けてこれを大阪市旭区大宮西之町七丁目一二三番地の一西野良一方の応接間に保管し、同月二七日破産者に乙第一号証の譲渡担保差入証を差し入れしめたものであること。そして、その後の破産者の支払手形の決済については、被告が二、(二)ないし(六)において主張したとおり、その主張どおり支払手形が呈示され、(このことは当事者間に争がない。)これに対する支払資金、支払資金不足による貸越についての約定、担保の提供(但し担保の目的は、主として貸越の都度、その貸越増加分の担保であるが、併せて既存債権の担保も含む。)右約定の履行状況等被告主張どおりであつて、被告は、右の趣旨で、支払資金不足による貸越増加分に見合う担保の提供を受けた(なお11ないし13の担保商品については、担保の供与を受けた日の同年四月五日の後の同月一〇日破産者より乙第二号証の譲渡担保差入証の交付を受く。)ものであること。このようにして、被告銀行は、破産者の支払手形の決済をしてきたのであるが、破産者の資金繰は好転せず、却つて、悪るくなる一方で、同月一五日期日の支払手形の決済についての約定の履行は、同月一九日までに現金一、二四〇、〇〇〇円の入金があつたのみで、残余の履行がなく、同月二〇日を迎え、同日千林支店に呈示された破産者の支払手形は、合計金二、二二五、一二八円となつていたのに、この支払資金調達の見込は全くたつておらず、且つ、将来呈示されるはずの破産者の支払手形は、同月二五日一三通合計金二、一六二、九七一円、同月三〇日七通合計金一、五二五、二四一円となつていたことから、破産者の手形決済の見込はたたず、不渡は最早時日の問題と判断し、当座貸越による破産者の支払手形の決済をやめ、同月二〇日から翌二一日早朝にかけて前記同月一五日の支払手形の決済についての約定(被告主張の二の(六)の約定)の履行を破産者に強く求め、同月二一日10、11の担保手形の裏書譲渡、金三〇、〇〇〇円の弁済を受け、翌二二日の月曜日に前記二〇日の期日の支払手形を預金不足の理由で返却した。このため、破産者は金員融通の途なく、一般に支払を停止したものであること。以上の事実を認めることができ、……右認定を左右するに足る証拠はない。

而して、右認定の事実によると、破産者が支払を停止したのは、昭和三二年四月二二日であつて、11ないし13の担保商品、2ないし11の担保手形の各譲渡が、破産者が支払停止前三〇日内になされたものであることは明らかであるが、右譲渡行為は、いずれも、破産者の義務に属しない行為ということをえないから、破産法第七二条第四号による否認の対象とはならないし、又金三〇、〇〇〇円の弁済も、支払停止前のものであるがら、同条第二号による否認の対象となるものではない。又、本担保商品、手形の譲渡は、前記認定の事情に照らすとき、破産者が破産債権者を害する意見を以てしたものとはいえないから、同条第一号の否認の対象にもならない。従つて、右各譲渡、弁済についての原告の否認は、その効力なく、右否認の有効を前提とする被告に対する右譲渡物件の価格に相当する金員及び弁済金の返還を求める請求は、いずれも理由がない。

三  次に、執行による弁済の否認について考える。

被告銀行が、原告主張の訴外株式会社日証の破産者に対する有体動産の執行に照査手続をなしたことは、当事者間に争がなく、成立に争のない甲第八号証によると、右有体動産の執行において、昭和三二年六月一七日金三七六、二〇八円の売得金をえたことが認められる。このことからすると、執行吏が破産者に対する動産執行により、その支払停止後破産宣告前に動産の売得金を領収し、右執行吏の売得金の領収のとき、債務者より債権者に支払をなしたものと看做される結果、破産管財人は、破産財団のため、これを否認することができることはいうまでもないが、債権者が多数あつて、売得金を債権者間に分配すべき場合においては、配当協議が整うか、配当表の確定までは、各自の所有に帰すべき金銭の部分は未だ特定しないから、債権者が一人である場合と異り、いずれの債権者も或る部分の単独所有者としてその権利を行使することはできず、債権の割合に応じ売得金を共有するものと解されるところ、本件においては、配当協議が整つたことも、亦執行裁判所における配当手続が開始されたことをも認めるに足る証拠はない(甲第九号証の配当協議の証明書によつては、被告銀行が配当協議をしたことは認めえない。)から、破産管財人によつて前記執行による弁済を否認された結果、果して、被告銀行がどれだけの金員の返還義務を負うものか定め難いので、この点において、原告の請求は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例